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将棋電王戦、団結する「個人商店」(ルポ迫真)

2015/5/6 日本経済新聞 朝刊

 「負けるのは仕方ない。でも、せめて事前に準備した研究手順を披露したかった」。4月4日夜、真っ暗になった奈良市の薬師寺境内。電王戦の第4局で将棋ソフト「ponanza(ポナンザ)」に完敗した七段の村山慈明(30)は肩を落とした。事前に対策を練る上で協力を仰いだのが、将棋ソフトに詳しい六段の西尾明(35)と兄弟子で七段の飯島栄治(35)だった。

電王戦終了後の記者会見に出席した棋士とソフト開発者 (4月11日、東京都渋谷区)

 ポナンザは、同じ局面でいつも同じ手を選ぶわけではない。局面ごとの出現確率を分析し、自分が有利になる手順を探る参謀がこの2人だ。「個人商店」ともいえるプロ棋士が一致団結するのは異例だ。協力の成果で、互角に戦える手順を用意して村山は対局に臨む。

 「45%」。重要な分岐点で、理想とする局面が現れる確率も西尾らの協力ではじき出していた。開始から1時間もたたずにその局面が現れる。その矢先、見たことのない手を指され、村山は青ざめた。後で確認したところ出現確率は3%だった。

 「勝ち越しの陰の立役者」とたたえられた西尾は、出場棋士5人のうち4人を支え続けた。3月20日に入籍し、新婚だったが、電王戦が終わるまでの約2カ月、連日10時間以上もパソコンの前で過ごした。「このソフトは、この局面でどう指してくるか」。5台のパソコンを駆使し、仲間の要望に応えてひたすら分析を続けた。スマートフォンでパソコンを遠隔操作し、外出先でも、食事中でも、自身の対局が終わった後でさえデータをとり続けた。

 「これ以上無理というくらい、いい準備ができた」。日本将棋連盟のプロデューサーとして出場棋士をサポートしてきた五段の遠山雄亮(35)は開幕直前胸を張った。連盟挙げての支援態勢は整えた。出場棋士5人の平均年齢は26.4歳と若く、実力も折り紙つきだ。

 実は、出場がかなわなかった切り札も将棋連盟は用意していた。昨年秋の竜王戦挑戦者決定戦で王座の羽生善治(44)を破り、その勢いで竜王のタイトルを奪取した気鋭の糸谷哲郎(26)だ。将棋連盟は電王戦出場の内諾を得ていたが、タイトル戦と並行して電王戦を準備するのは困難。代わって七段の稲葉陽(26)が出場した。

 2年連続で団体戦で負け越して追い詰められていた将棋連盟は、棋界の顔となるスター候補を立ててまで勝とうとしていたのだ。

(敬称略)

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