くつろぎの明かり作る「3低」 暮らしの照明術
低い位置に「多灯分散」
温かなキャンドルの灯が揺らめく食卓。棚や床の上には間接照明やスタンドライトが置かれ、リビングを雰囲気よく照らす。東京都内にある50代会社員、Aさん宅の夜の風景だ。3年前に家を建てた際、天井に大きな照明は取り付けなかったが、夫婦2人の暮らしに不便はないという。
「海外生活を経験し、照明は最低限あればいいと知った。ほのかな明かりを組み合わせ、光の幅を楽しんでいます」。本を読む時はスタンドライトで手元を明るく照らすなど、生活シーンによって照明を使い分ける。
日本の家庭の照明は1つの電灯で部屋の隅々まで照らす「一室一灯」が一般的。対して、Aさん宅は用途に合わせて複数の照明を切り替える「多灯分散」式。欧米ではこちらが主流だ。東日本大震災後は節電意識が高まり、日本の照明環境も見直されつつあるが、「欧米に比べるとまだ10倍は明るい」と照明デザイナーの東海林弘靖さんは話す。
夜、明る過ぎる空間は人間の体内時計を狂わす原因となり、心身に負担を与える。体を休めるにも適度な暗さは必要だ。東海林さんは「まずは天井の大きな電灯を消すのが第一歩」と言う。しかし、ただ暗いだけでは不便で味気ないもの。くつろいだ雰囲気を作るにはAさん宅のように明かりを組み合わせ、「光と戯れる遊び心で工夫してみてほしい」。
東海林さんは身近な照明器具を使った多彩なアレンジを提案する。例えば、勉強机で使うようなシンプルなアームスタンドも、壁や天井に向ければ雰囲気ある間接照明に。部屋の片隅に飾った趣味の絵や思い出の写真などに光を向けると、リビングが即席の「美術館」に早変わりする。また、白や薄赤色のワインを入れたグラスにキャンドルの光を反射させれば、食卓をムードあふれるバーのように演出できるという。「テーブルに落ちるかすかな光をワインと共に味わって」と東海林さん。
落ち着いた雰囲気を作るには、目に入る直射光を無くすことが大きなポイントだ。また、天井の電灯は市販の調光器を取り付ければ明るさを抑えられる。
視線の先照らし奥行き
パナソニックが照明の配置による心理的、生理的影響を解析した結果、多灯分散の部屋が最も「くつろぎ感」が高かったという。同社は人が知覚する明るさは床などの1面だけを測る照度(ルクス)では一概に評価できないとし、空間の光を総合的に数値化する。インテリア照明チームの椙崎(すぎざき)加奈さんは「照度が低くても、視野に入りやすい壁面などに光を当てれば快適に過ごせる」と説明する。
くつろぎ感を生むポイントは「低位置、低色温度、低照度の『3低』」と椙崎さんは言う。低い場所に照度を抑えた光源を置くと落ち着いた印象に。また、色温度が低いほど赤みを帯びた温かな色味になる。読書時は手元を明るくするほか、視線の先にある壁などを少し照らすと空間がゆったりと広く感じられるという。
複数の照明をそろえるコストはかかるが、用途や活動によって照明を使い分けることは省エネ、節約にもつながる。必要な場所に必要な分だけ。そんな発想で、明かりの色や置き方にこだわってみてはどうだろう。
(柳下朋子)
[日経プラスワン2014年9月6日付]
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