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エコノ探偵団

賃料だけじゃない 本社移転、過去10年で最多のワケ

2013/8/27 日本経済新聞 プラスワン

 「来月、本社が引っ越すことになりました。お世話になりました」。探偵事務所に挨拶に訪れた近所の会社員に、探偵の松田章司が反応した。「また引っ越しか。本社の移転が増えているのかな。よし調べてみよう」と事務所を飛び出した。

■異業種と組める立地へ

 章司はまず企業情報に詳しい帝国データバンク(東京都港区)を訪れた。産業調査部情報企画課長の昌木裕司さん(50)が全国約144万社を収録したデータベースの直近10年分を調べると、「確かに本社の引っ越しは増えています。2012年の移転件数は最高でした」と答えた。市区郡をまたいだ本社の移転は1万1143社で、前年に比べて5%増えていた。

 都道府県別に見ると、移転した企業のうち移転前の本社所在地は東京都が半数近くを占め、大阪府も1割に達した。東京都と大阪府の場合は入ってくる企業より出て行く方が多かった。しかも都内の本社を近郊に移すように、大都市圏内で動いていた。「取引先や顧客との関係を考えると長距離の移動は難しいようですね」と昌木さん。

 「なぜ本社を移すのかな」。章司がオフィス事情に詳しい米系不動産サービス大手のシービーアールイー(CBRE、東京都港区)を訪ねると、シニアディレクターの前澤威夫さん(50)が解説を始めた。「会社が成長して従業員が増え、手狭になったオフィスを広げつつ、賃料も下げたいという企業が多いですね」。最寄り駅からの距離や通勤の便を重視するが、必ずしも都心であるとは限らない。

 「企業にも移転の判断理由を聞こう」。13年9月に引っ越す京成電鉄に問い合わせると、「都内の本社ビルは建て替えて貸し、自社路線の多い千葉県に移って営業基盤をさらに固めます」。都心からやや離れるキリンホールディングス(HD)は「都内に分散していたグループの拠点を設備が整った最新ビルに集約しました」という。

 章司は本社の立地と会社組織を研究する青山学院大学教授の須田昌弥さん(45)を訪ねた。「実は本社移転の本当の狙いは、仕事の能率を上げることなのです」。須田さんによると、創業間もない中小企業は店舗や工場のそばに事務所があるのが一般的。現場のトラブルに社長が素早く判断しなければならない。企業が成長すると、本社は都市部に集まる取引先との商談がより重要になる。一方、工場は用地確保や物流を考慮すると地方に置いた方が便利だ。

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