椀のふたの開け方は 意外と知らない和食のマナー
手皿はNG、懐紙を活用
「わさびはしょうゆに溶かしていい?」「お椀(わん)のふたを受け皿に使うのはOK?」
ハイアットリージェンシー東京(東京都新宿区)の日本料理店「佳香」には会席料理を食べながら和食のマナーを学ぶプランがある。女子会や会社の研修、互いの親への結婚の挨拶に備える人らが参加し、日本料理食卓作法認定講師の資格を持つスタッフに問いかける。
「正しい作法で食べているとそれだけで好感度が上がる」と話すのはリーダーの伊藤夏子さん。和食の作法を知らなかったり、勘違いしていたりする人は多い。
多くの人がしてしまうのが、料理がこぼれないように手のひらで受ける動作。日本料理は手のひらサイズの小皿は持ってよい。例えば、刺し身やすしを食べるときは、しょうゆが落ちるのを防ぐためにも小皿は持つ。「手で受けるのは間違い」と伊藤さんは強調する。
わさびはしょうゆに溶かさず、切り身の上に直接置いて、しょうゆを付けて食べる。すしは横に倒して箸でつかみ、しょうゆはネタに付ける。
戸惑う人が多いのは椀。「ふたを開けるとしずくがたくさん落ちて焦ったことがある」と話すのは、伊藤さんにマナーを教わった山下恵さん(仮名、27)。椀には「露切りの所作」と呼ぶ作法がある。ふたを持ち、上の方向に開けて右側に回し、数秒待ってから外すとしずくが落ちにくい。ふたは返して右側に置く。
手で持てない大きな椀のときは、ふたを受け皿として使ってもよい。食べ終わったらふたを閉める。ひっくり返して重ねて置くのは不作法だ。
「懐紙は和食を食べるときの強力な助っ人」と話すのはマナースクール、ライビウム代表の諏内えみさん。百貨店や文具店で買えるので用意しておく。焼き魚などを食べるときに手を汚さずに済み、魚の骨、果物の皮や種を出すときに口元を隠すのに使える。
また、気をつけたいのが店を訪ねる際の身だしなみ。「日本料理は香りが重要な要素。強すぎる香水は相手にも迷惑」と諏内さん。夏は大ぶりの指輪やブレスレットなどを着ける機会が多いが、高価な器に傷を付けることもあるので控えよう。
箸のとり方も大切
改まった席での和食に苦手意識を持つ人が多いのは、「箸使いに自信を持てないため」と小笠原流礼法宗家の小笠原敬承斎さんは指摘する。
箸を正しい形で持ち、料理を口に運ぶのが理想だ。ただ、正しく持てなくても食事を始めるときの作法を知っていると印象は変わる。手順は(1)右手でとる(2)左手で下側から支え持つ(3)右手を箸から離さないようにして上から下に持ち替える――。この流れが滑らかにできると美しい。左利きの人は箸先の向きを変え、逆の手でとって持つ。
小笠原流では「箸先五分、長くて一寸」という教えがある。汚れてよいのは箸先から1.5センチ、長くて3センチという意味。汚れた箸先をなめる「ねぶり箸」は不作法で懐紙でふくのがマナーだ。
箸使いにはほかにもタブーがある。器の上に渡してのせる「渡し箸」はしない。箸を休めるときは箸置きに。なければ箸袋を結んで作る。箸袋もないときは盆などの縁にかける。箸先から汁をたらしながら口に運ぶ「涙箸」、どれを食べるか迷って箸先を動かす「迷い箸」、刺して食べる「刺し箸」もNGだ。
「大人になってからでも正しい箸使いは身に付く」と小笠原さん。しっかり身に付けて、和食の心得のある自分を演出したい。
(坂下曜子)
[日経プラスワン2013年8月3日付]
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