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エコノ探偵団

人事異動、なぜ希望は通らない?

2013/3/12 日本経済新聞 プラスワン

 「春の人事異動で希望していない職場になりました。周りでも望み通りになった人は少ないです。なぜ希望がかなわないんでしょう」。若手会社員が疑問を持ち込んだ。「働く人の切実な声ですね」。探偵、松田章司が調査を始めた。

■組織の利益ふまえ配置

 「人事異動の希望が通らない社員はどれくらいいるのかな」。章司はリクルートワークス研究所の「ワーキングパーソン調査」を見つけた。最近の異動が「希望に基づいている」との回答はわずか3割だった。

 「やっぱり希望はかなわないんだ」。章司は、人事コンサルティングを手掛けるリクルートマネジメントソリューションズ(東京都千代田区)の宮崎茂さん(46)に事情を聴いた。「1980年代後半から90年代にかけて、希望部署の自己申告制度が広がりましたが、すべての希望をかなえると不都合が起きます」

 「隣の芝生は青く見える」という言葉があるように、今の業務のつらさから逃れるため他部署を希望することも多いと宮崎さんは指摘する。異動先でがんばる社員もいるが、能力を発揮できなければお互いに不幸だ。会社が割り振った方がよいこともある。

 章司が次に向かった神奈川県庁。2007年春異動から職員が行きたい部署と面談をして、合意すれば異動できる「庁内FA(フリーエージェント)制度」を導入した。だが西海裕之さん(45)の表情は複雑だ。

 「実は庁内FAは11年に廃止しました」。初年度は職員約9000人のうち制度を使った異動は約20人にすぎず、その後も減り続けた。面談に行っても「採用したいが、代わりに出せる人材がいない」と断られるケースもしばしばあった。

 個々の部署に必要な人数は決まっている。新しい人材を採ったら、代わりに他の部署へ移る人が必要だ。全国各地に拠点を持つ大企業では、転勤も伴うため調整は並大抵ではない。

 章司は、人事管理に詳しい学習院大学教授の今野浩一郎さん(66)に意見を求めた。「正社員は会社の都合でどんな職場でも異動しなければならないので良い待遇で報いているのです」

 同じ仕事でも総合職の正社員はパート社員より年収が高く福利厚生も手厚い。出世する可能性も高い。それは、会社の命令に従う対価としての「ガマン料」が含まれているのだという。

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