ライフコラム

エコノ探偵団

2011年は全国で57件、日本でストライキが少ない理由

2012/11/20 日本経済新聞 プラスワン

 「海外の工場などでストライキが起きたニュースをよくみますが、日本ではあまり聞きませんね。なぜですか」。近所の大学生の疑問に、探偵の松田章司が応じた。「昔はよく起きたというけど、確かに不思議だな。調べてみましょう」

■デフレ下 賃上げ難しく

 「これほど少ないとは」。ストライキ(スト)などの発生件数を調べた章司は驚いた。厚生労働省によると、2011年は全国で57件。ピーク時の1974年に9500件を超えていたのとは様変わりだ。

 ストとは労働者が賃上げや労働条件の改善を求めて一斉に働くのをやめること。労働組合が会社への事前予告など手続きを踏み正当性が認められれば、ストで会社に生じた損害の賠償責任を免れるなど法の保護を受けられる。かつては鉄道やバスなどが停止するなど社会的な影響もあった。「04年にプロ野球選手会が球界再編を巡ってストをした事くらいしか覚えてないな」と章司。

 一方、新興国では賃上げや待遇改善を巡ってストが頻発し日本企業も対応に苦慮している。スズキのインド子会社、マルチ・スズキのマネサール工場では昨年6月と10月に発生。今年7月には暴動が起き「安全確保のため会社側が工場を1カ月閉鎖した」(スズキ広報)。財政危機に陥ったギリシャやスペインなどで、緊縮政策に反対する公務員がストを起こしている。

 「日本でも長時間労働やリストラなど、働く人に不満はあるはずだけど」。章司は電機業界などの産業別労働組合、電機連合を訪ねた。ストが減ったのは「経営側と組合が定期的に情報交換をする、労使協議の仕組みが普及してきたことが背景でしょう」と書記次長の岡本昌史さん(48)。

 日本経済は70年~80年代に石油ショックと円高に見舞われ、製造業を中心に先行きへの危機感が高まった。さらにバブル崩壊を経て長期低迷に陥った。難局を乗り切るために経営側と労組側は知恵を絞り、労使協調関係は一段と強まった。会社の経営が弱体化すると、倒産したり海外資本に買収されたりしかねないからだ。「深刻に対立する前に、話し合いで解決できるというわけか」

 章司は労働経済学に詳しい大阪大学教授の大竹文雄さん(51)にも意見を求めた。高度成長期では年間5%以上の物価上昇が珍しくなく、激しいインフレに合わせて賃金も上げないと生活が苦しくなった。「来年どれくらい物価が上がるのか労使の見通しが食い違ったから、ストが多かったのでしょう」と大竹さん。

 今は長期のデフレ傾向から抜け出せず、賃上げを求めにくくなった。年功序列や終身雇用が崩れつつあり、労組には雇用優先のムードも生まれストを起こしづらい環境になった。「長引く景気低迷も響いているのか」と章司はうなった。

ライフコラム