くらし&ハウス

  • クリップ

暮らしの知恵

その箸の持ち方 大丈夫? 正しい人は30代でも3割 どこまで直せるか、記者が挑戦

 

2012/9/27 日本経済新聞 プラスワン

 箸を正しく持てないと、食材をうまくつかめないうえ、見た目も悪い。記者(33)は箸をきちんと持てず、長年、何とかしたいと思っていた。今からでも遅くはないはず。30年以上の食生活で身についてしまった箸の間違った持ち方をどこまで直せるか、試してみた。

■正しく使える人、40~50代でも3割台

 目白大学が栃木、埼玉、福島各県などの約8000人を対象に調べたところ、記者と同年代の30代女性で箸を正しく使える

 箸を正しく持てないと、食材をうまくつかめないうえ、見た目も悪い。記者(33)は箸をきちんと持てず、長年、何とかしたいと思っていた。今からでも遅くはないはず。30年以上の食生活で身についてしまった箸の間違った持ち方をどこまで直せるか、試してみた。

■正しく使える人、40~50代でも3割台

 目白大学が栃木、埼玉、福島各県などの約8000人を対象に調べたところ、記者と同年代の30代女性で箸を正しく使える人は約3割にすぎなかった。40代や50代でも30%台で、男性もほぼ同じ結果だ。正しく使える人の割合は、年々減っているという。

 右の図のように、上の箸は中指と人さし指の第一、第二関節を使って上下に動かし、親指はぐらつかないようにそえる。下の箸は薬指の先端と親指の付け根に置いて固定し、食べ物をはさむには上の箸を動かす。これが正しい持ち方だ。

 記者は2本の箸を親指の付け根にはさみ、付け根に力を入れて箸先で食べ物をつかむ変な持ち方をする。

■関節を動かす感覚身に付ける

 子どもの頃は親に何度も直すように注意されたが、聞き流していた。だが社会人になると恥ずかしく思うようになり、そろそろ子どもにも箸の使い方を教えなくてはならない。大人でも直せるのだろうか。

 まずは全国で年350件以上の「お箸知育教室」を主催する箸専門店、兵左衛門東京支店(東京都千代田区)の中道久次さんを訪ねた。広報担当の吉田和史さんとともに2人がかりで指導してもらうことにした。「その気になれば大人でも癖は直ります」という。

 最初に中道さんに持ち方を見てもらうと「中指と人さし指が機能していないので、関節を動かす感覚を知るところから始めてほしい」と指摘された。さっそくトレーニングを始める。

■1本だけで「1」書く練習

 1本の箸を中指と人さし指で持って、親指をそえる。そのまま数字の1を書くようにゆっくり上下に動かしてみる。この練習は正しく箸を持つための一般的な方法だという。

 実際に試すと、うまく動かせない。あまりに記者が不器用なので吉田さんが驚いていた。

 中指と人さし指を輪ゴムで固定してしばらく練習することにした。1本を動かすだけなので、ペンでも練習できる。職場の会議中、通勤途中の地下鉄、寝る前でも暇さえあれば数字の1を書き続けた。

 練習しながら思った。なぜ箸を正しく持てる方がよいのか。箸の研究をする千葉大学大学院准教授の下村義弘さんに聞いてみた。

■正しい持ち方、物をつかむ操作性が抜群に高く

 下村さんは、普段は箸を使わない手(非利き手)で、正しい持ち方と間違った持ち方をすると、何が違うのかを比較した実験をしている。非利き手で実験するのは、癖のない白紙の状態から調べるためだ。その結果、正しい持ち方のときは手指の筋肉を効率的に使い、物をつかむ操作性も抜群に高いことがわかった。

 ただ下村さんは「小脳にすり込まれた長年の癖を直すのはかなり難しい」という。少し心が折れた。

 気を取り直して、練習開始から5日目、下の箸を親指の付け根に置いて、上の箸を動かしてみる。だが箸先がうまく合わない。下の箸があるとそちらに意識がいく。下の箸は左手で支えながら箸先を合わせる感覚を得ることにした。

■食事のときは、今まで通りでOK

 練習と並行して正しい持ち方で食事をするようにしたが、気をとられておいしくない。練習も苦痛になってきたため、改めて吉田さんに会った。「食事はこれまでの慣れた持ち方で食べましょう。食事がつらくなると断念しがちです」。慣れた持ち方で食べるようにすると、後ろ向きな気持ちがすっと抜けた。

 7日目、下の箸を支えなくても箸先が合うようになった。小笠原流(礼法)の小笠原敬承斎さんに持ち方を見てもらうと「正しい持ち方ですね」とお墨付きをもらった。癖が直るかもしれない、と期待が膨らむ。

■ペンの持ち方も自然に変わる

 箸の持ち方を変えると、ペンの持ち方が自然に変わった。上の箸はペンを持つ形をそのまま箸先から3分の2の位置に滑らせる。ペンは正しく持つ方がしっくり来るようになった。

 だいぶ慣れてきた8日目、ピーナツをつかむ練習を始めた。くぼみの部分はつかみやすいが、丸みの部分を持つには指を使って箸先に力を入れる。これがなかなかできない。プチトマトは滑るのでさらに難しい。ストップウオッチを使いながら速く正確に皿から移せる技を磨く。しかし、これが裏目に出た。

 16日目、中道さんのチェックを受ける。「人さし指が曲がって内側に傾きすぎ。変な癖がついてる」と指摘された。ピーナツやトマトをつかむ練習は中止し、再び1本の箸で数字の1を書く練習を繰り返すことにした。

■練習20日目、98点の合格点

 そして20日目。中道さんの前でおかずが15種類入った和食弁当を食べ、持ち方の最終テストを受けた。

 玉こんにゃくをつかみ、3センチ四方の大きさの豆腐を持ち、卵焼きやサトイモを一口サイズに割った。「数回、人さし指が内側に来ることがあったが、正しく持てるようになった」と98点の合格点をもらった。

 20日で意識的に直すところまでできた。後は寝ぼけていても酔っていても、正しく持てるようにしたい。今後も練習すると誓った。

 

記者のつぶやき
 ペンを正しく持てれば、箸も正しく使えるそうだ。一緒に食事をしなくても分かる人には見透かされてしまう。
 箸を正しく持てると自信がわき、長年のコンプレックスが解消できた。吉田さんに「あまりに不器用なので直らないと思った」と後で明かされる記者でも上達したのだから、やる気さえあれば誰でもいつからでも直せそうだ。
(坂下曜子)

[日経プラスワン2012年9月22日付]

関連情報

くらし&ハウス