おおかみこどもの雨と雪
こまやかで力強い自然描写
「時をかける少女」(2006年)、「サマーウォーズ」(09年)の2作で、すでに完全に信頼のブランドとなった長篇(ちょうへん)アニメーション作家、細田守監督の第3作。
ニホンオオカミ系の狼男と出会い、恋におち、2人の子どもを産む女性、花(声=宮崎あおい)とその子どもたちのものがたりだ。
設定としてはファンタジーだが、花と「彼」(大沢たかお)の出会いは、都会のかたすみでおこるかも知れない、秘密めいた恋としてひっそりとかたられ、彼をうしなってのちの子どもたちとの生活は、山奥の村で自然の生命力のすばらしい描写とともに時がすすんでいくので、ファンタジーであることをあまり意識せずに見てしまう。
雪と名づけられた長女も1歳下の長男、雨も、父親の血をうけつぎ、人でもオオカミでもある。花はもちろん彼らを人として育てるが、幼い2人は自分をコントロールできず、感情が激したりして我をわすれるとオオカミのすがたになる。
それで、あまり人目につかない過疎の村に移り住んだのだが、その環境のなかで姉の雪と弟の雨は、人とオオカミの二重の生を生きつつ成長し、自分の生きかたを見つけていく。どちらの生をえらびとるかもふくめて……。
ストーリーの展開は、前2作にくらべると、時間にあらがうサスペンスも、スペクタキュラーな闘争もなく地味である。だが、そのぶん、自然描写のこまやかさとダイナミックさに、こころをうばわれる。
野の花の美しさ、子どもたちの名前ともなった雨と雪の繊細さ、空のあおさ。林のなかをオオカミとなってつっ走る子どもたち。
雨と雪のオオカミへの変身はあっけなくおこる。それよりも、もうひとつの、ゆっくりした変身、つまり成長にじっくり目をそそいでいるのが、この映画のおもしろさだ。1時間57分。
★★★★
(映画評論家 宇田川 幸洋)
[日本経済新聞夕刊2012年7月20日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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