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多摩川の水、ろ過して飲めるか 試してみたら…

 

2011/6/24 日本経済新聞 プラスワン

 人が生活する上で水の存在は欠かせない。もし大災害で水道網が寸断されたらどうするか――。思いついたのは川の水をくんで使うことだ。そのままで飲めるのか。飲まないまでも生活用水には使えるのか。効果的なろ過方法は。震災などが起きたとき川の水がどこまで使えるか、確かめた。

 水道水は国が50項目におよぶ具体的な水質基準値を定め、水質管理上の目標値も別に30項目を設けている。計80項目をクリアして家庭まで届け

 人が生活する上で水の存在は欠かせない。もし大災害で水道網が寸断されたらどうするか――。思いついたのは川の水をくんで使うことだ。そのままで飲めるのか。飲まないまでも生活用水には使えるのか。効果的なろ過方法は。震災などが起きたとき川の水がどこまで使えるか、確かめた。

  • 多摩川中流の水を手製のろ過装置できれいに。1リットルを1回こすのに30分の地道な作業
 水道水は国が50項目におよぶ具体的な水質基準値を定め、水質管理上の目標値も別に30項目を設けている。計80項目をクリアして家庭まで届けられる。とはいえキャンプで渓流の水をすくって飲んだ記憶もある。よどんだ泥水でなければ、問題ないのではないか。

 自宅に近い多摩川の中流の水が飲めるかどうか、確かめることにした。多摩川は山梨県を源流に東京湾へ注ぐ。中流の両岸は東京都と神奈川県の住宅地だ。長靴で川に入り、川上に向けてポリタンクを沈める。深さ40センチほどの流れは予想以上に清らかで、川底の小石がきれいに透ける。1度だけだが魚もはねた。

ペットボトル2つ重ねて容器に

 帰宅して水質検査に取りかかる。「パックテスト」という検査薬で、アンモニウム、硝酸など水質汚濁を示す成分を測定。水中の有機物を分解するのに必要な酸素量を測ることで水の汚れの度合いを表す指標「COD(化学的酸素要求量)」にもこの試薬を使う。さらに飲める水かどうかを左右する病原性の大腸菌を調べるため、検査器具「サンコリ」を準備した。

 澄んだ見た目と裏腹に、多摩川中流の水は汚れていることが判明した。水道水の基準内ながら硝酸が検出され、CODは比較的高い。大腸菌も一定の温度で一晩温めた後に検査紙を紫外線で照らすと、菌のコロニー(固まり)がはっきりと確認できた。

 ならば水をきれいにしよう。アウトドアや災害対策のガイドブックを参考に手製のろ過装置を3つ作り、市販の装置を含めて試してみる。第1はガーゼ、綿(わた)やキッチンペーパーなど家庭内にある材料を使う。第2は枯れ葉や小石、洗ったTシャツなどアウトドアで手に入りやすい材料をろ材にした。

 2リットル入りペットボトルを2つ重ねて容器にする。上のボトルから少しずつ流れ出た水が下のボトルに詰めたろ材の層をしみ通った後、キャップに開けた小さな穴から滴り落ちる。金魚の水槽ろ過用に買った活性炭をろ材に加えた。うまくいけば各種の汚れを炭がこし取ってくれるはずだ。

 第3はバンダナを重ねただけの簡易版、第4は3500円ほどで購入した市販のろ過器だ。ろ過1回でOKと説明書にある市販品以外は、ろ過を5回繰り返した。ボトルからポタポタと垂れる水。1回のろ過で30~40分かかる。

 ところが簡易版にトラブルが発生。100円ショップで買ったバンダナの色素か、こされた水は明らかにオレンジ色だ。何度か洗濯して再挑戦したが結果は同じ。家中を探し、使い古しのバンダナに交換した。

 1日がかりの作業の末、4種類のろ過水がそろった。それぞれ微妙に色合いが異なるが、ろ過前より透明度は上がった気がする。だが、パックテストで期待は困惑に変わった。汚れを示す各種の数値がろ過前より上がっている。

 例えばCOD。手製の装置は3種類とも、元の水の2倍近くまで数値が上昇した。家庭内の材料版と簡易版でこした水はともに測定限界の「1リットルあたり8ミリグラム以上」。簡易版はアンモニウムも元の4倍に増えた。リン酸は家庭内版が元の4倍となった。飲み水にするのに手製装置は逆に良くないということなのか。

 効果が見られたのは硝酸。家庭内版とアウトドア版で、元の水の4分の1から半分以下に減っている。水の中の硝酸の値が高いと、健康被害を起こしかねず、特に乳児には問題が多い。その点では心強い結果だ。一方で亜硝酸は増減がバラバラ。また、市販品を除くろ過方法では大腸菌を取り除けていなかった。

「どんな川なのか普段から関心を」

 期待はずれの結果を手に東京農業大学へ相談にいった。岡沢宏・地球環境科学部准教授は「CODの上昇はろ過材に付着していた有機成分が溶け出したせいでは」と指摘する。中でもアウトドア版に使った枯れ葉は、有機成分そのもの。泥水などの粒子の大きい成分のろ過には有効だが、今回の多摩川の水には使わない方がよかったかもしれない。

 一方、硝酸が減ったのは活性炭によるろ過が効いているようだ。「化学物質も吸着する活性炭は多く使った方が効果的です」

 パックテストを開発・販売する共立理化学研究所(東京都大田区)によると今は工場の排水管理が厳しく、公害病の原因ともなる六価クロム化合物など重金属類は「原則含まれていないはず」(岡内俊太郎取締役)。今回、検査はしなかったが、飲み水にするとなれば不安にもなる。「非常時に迷わないためにも、どんな川なのかを普段から知っておくべきだ」(同社)

 ともあれ、苦労してろ過した水を「飲みたい」という気持ちは抑えられない。そこでそれぞれ3分間煮沸して再度、大腸菌を測った。結果は「シロ」。大腸菌には加熱が最も効果的だ。味わいは3種3様だが、アウトドア版の水は舌に刺激を感じ、はき出したくなった。安心・安全な水を手に入れるのがどれほど難しいか。身にしみて感じた。

記者のつぶやき
 水を汚す物質は多種多様。個人ですべて検査するのは困難だ。飲むかどうかはそれゆえ、各人の判断に委ねられる。川の水を飲むなら上流でくみ、ろ過の手間を惜しまないことが大事だろう。岡沢准教授は「飲むかはともかく、洗濯や入浴など生活用水に使うことは今後、想定していい」と話す。その意味でも川を汚すことなかれ、だ。つくづく実感。

(編集委員 天野賢一)

[日経プラスワン2011年6月18日付]

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