今すぐ仕事に使える 「クラウドコンピューティング」入門
「膨大な書類を簡単に管理したい」「家族や友人で写真を共有したい」。そんな願いを抱く人にとって便利なサービスが広がっている。インターネットにつながる環境があれば、場所や道具に縛られずうまくデータを管理できるという。仕事や趣味で生かせるワザを、ネットの達人たちに聞いた。
「仕事部屋はあるが、ほとんど使わない」。テクニカルライターの原如宏さんはほぼ毎日、東京都内のカフェを巡りながら執筆活動をする。持ち歩くのは最低限の書類と手帳、ノートパソコンやスマートフォン。無線LAN(構内情報通信網)でネットにつながる環境があれば困らないという。ノートパソコン1台でサクサクと仕事をする姿はなんだか軽快だ。
原さんはまず、とにかく紙の資料をデータ化するという。書類などはスキャナーで一気に読み取り、名刺は携帯電話で撮影。それらを保存しておけば紙の資料を持ち歩いたり、ため込む必要がない。「データにすればパソコンで検索できるので情報を探す手間も省ける」。会社の机で書類の山から目当ての書類を探すために悪戦苦闘するようなことはなくなりそうだ。
読み取ったデータの保存先として便利なのが「クラウドコンピューティング」と呼ばれるネット上のサーバーだ。ネットに接続すれば、どの端末からアクセスしてもデータやソフトを利用できる。有名なものには米グーグルのメールサービス「Gメール」などがある。
パソコンのハードディスクに保存した情報を持ち歩く手段としては「USBメモリー」があるが、保存・読み込みに手間がかかる上、USBを紛失するリスクもある。データをネット上のサーバーに預けておけば、外出先でスマートフォンやタブレット端末でも情報を引き出せるので、複数の機器を使い分ける人にとっても便利だ。
ウェブサイト構築のサイバーローグ研究所(東京都渋谷区)社長の大橋悦夫さんは、このようなウェブサービスを多用する一人。中でも「エバーノート」というサービスには1万個以上のファイルを保存しているという。
街中を歩いていて仕事のアイデアが思い浮かぶとスマートフォンでメモし、気になった店舗や風景に出合ったら写真を撮る。これらのデータを片っ端からエバーノートにアップ。いわばネット上に「巨大なメモ帳」を持っているようなものだ。「とにかく何でも情報を集めておく。企画書のアイデアや取引先との会話の材料など、思いがけない場面でそれが役に立つことがある」と大橋さん。
ビジネスだけでなく、家計管理にも使える。例えば、スーパーやレストランのレシートを写真で撮っておく。写真には日付も記されるので、保存しておけば、いつどこでいくら使ったかが一目で分かる。レシートには店の電話番号が記載されていることが多く、後で問い合わせをする時にも便利だ。
ネット上のサーバーは複数でデータを共有することにも向いている。仕事で同じプロジェクトに携わるメンバーで共有フォルダを作っておけば、アクセスするだけでデータをやりとりできる。
家族や友人であれば、それぞれが撮った旅行の写真や動画をアップしてみんなで共有できる。動画は容量が大きいのでメールでは送りづらいが、これなら問題が少ない。
IT(情報技術)を活用した営業方法をコンサルティングする斎藤昌義さんは「ウェブサービスには保存可能な容量の制限やファイル形式、操作方法などの違いがあるので、目的に合わせて選ぶといい」と話す。
利用する上で注意点もある。ネットにつながらない場所ではデータにアクセスできないし、サーバー上のデータが消えてしまうという危険性も無くはない。情報を複数の場所に分散させるなど、慎重を期すことも大事だろう。
[日経プラスワン2011年5月28日付]
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