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舞台・演劇

新国立劇場 オペラ「アラベッラ」 晩期ロマン派の叙情、美しく青き舞台と音楽

2014/6/4

 リヒャルト・シュトラウスの生誕150周年記念として新国立劇場が選んだのは、作曲家の最も叙情的なオペラ「アラベッラ」だ。娘の縁談を軸に、退役軍人の家庭を巡るホームドラマ。4年前の再演だが、キャストは大幅に代わった。追憶の「青」に染まる舞台に、古き良き時代への郷愁が漂う。初日の5月22日の公演を見た。

ソプラノのアンナ・ガブラーが演じる舞踏会でのアラベッラ(5月、東京都新宿区の新国立劇場)=撮影 寺司正彦、写真提供 新国立劇場

 ウィーンを流れる美しく青きドナウ。その冬の水底に沈む懐かしい写真のような青い舞台。写し出されるのは退役軍人の長女アラベッラの縁談を巡る情景だ。窓外には綿雪が静かに降り続く。きっとそんなに寒くない。没落していく家や街を捨ててどこかへ旅立てそうな気もする。でも誰も出て行かない。逆に外国から大金持ちがやってくる。アラベッラとの結婚を願って。

 外国といっても、大金持ちのマンドリカが広大な農園を所有しているのはクロアチアだ。ホフマンスタールがこの台本を書いたのは1928~29年。第1次世界大戦で敗れたオーストリア=ハンガリー二重帝国は解体され、クロアチアはユーゴスラビアに編入されたが、もともとは帝国の一部。アラベッラの父ヴァルトナー伯爵は、破産寸前の没落貴族を救ってくれるクロアチアの資産家が現れて有頂天だ。帝国が崩壊した後のウィーンの状況を考えれば、この人物設定は意味深い。

舞踏会でのマスコットガール、フィアッカミッリ役のソプラノ、安井陽子(5月、新国立劇場)=撮影 寺司正彦、写真提供 新国立劇場

 原作の時代設定は1860年代だが、演出家のフィリップ・アルローは1930年代の大恐慌時代のウィーンを想定したという。第2幕の青い舞台で繰り広げられる舞踏会も、華やかに見えて清楚(せいそ)な衣装だ。求婚者に囲まれるアラベッラ役のソプラノのアンナ・ガブラーは、優雅さに加えて、厳しい時代を生き抜く気高さを終始漂わせている。その歌声には張りがある。特に第2幕のマンドリカ役との二重唱「そしてあなたは私の主人となり」は、気位の高さの中にも結婚への憧れを感じさせる純真さを表している。

 第2幕でマスコットガールのフィアッカミッリ役のソプラノ、安井陽子が歌うヨーデル風の歌「ウィーンの殿方たちは」が強い印象を残す。青一色の舞台の上で紅一点、舞踏会の派手な赤いマスコット衣装を着て、高音のコロラトゥーラ(華やかな装飾を付けた速い即興的なフレーズ)を歌い上げる。モーツァルトの「魔笛」やロッシーニの「セビリアの理髪師」などウィーン全盛時代を思い起こさせる歌姫はしかし、追憶の青い水底できらめく妖精であり、郷愁のロマンチシズムを醸し出している。

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