アート&レビュー

音楽レビュー

ザルツブルクからフクシマへ 細川の新作をN響が世界初演

2013/8/30

 夏のヨーロッパで最大級の芸術イベント、オーストリアのザルツブルク音楽祭(正式には「ザルツブルク祝祭=Salzburger Festspiele」)に8月25日、NHK交響楽団(N響)がデビューし、喝采を浴びた。1990年に小澤征爾指揮サイトウ・キネン・オーケストラが出演したが、世界の名手の臨時編成アンサンブルではなく、常設の交響楽団が日本から招かれたのは初めて。指揮台に立った名誉音楽監督のフランス系スイス人、シャルル・デュトワにとっても77歳目前の「超」遅ればせのザルツブルク・デビューだった。

■細川俊夫の音楽祭委嘱新作、「嘆き」を世界初演

 N響の出演は音楽祭のアレクサンダー・ペレイラ総監督の強い肝煎りで、同時代音楽のシリーズに組み入れられた。現代日本を代表する作曲家、とりわけドイツ語圏で評価の高い細川俊夫(1955年-)へ音楽祭として新作を委嘱する一方、西洋起源のオーケストラと日本の伝統楽器を対峙させた1950ー60年代の「ウェスト・ミーツ・イースト」期が生んだ武満徹(1930-96年)の傑作「ノベンバー・ステップス」(1967年)の再演を目指した。後半にはデュトワ十八番のフランス音楽から、ベルリオーズの「幻想交響曲」を選んだ。

ザルツブルク祝祭劇場「フェルゼンライトシューレ」で演奏するシャルル・デュトワ指揮NHK交響楽団(撮影=ウォルフガング・リエンバッヒャー)

 会場のフェルゼンライトシューレはドイツ語の意味通り、岩山をくり抜いてしつらえた乗馬学校の遺構を利用、舞台背後のバルコニーを照らす光が幻想的な雰囲気を醸し出す。尺八の柿堺香、琵琶の中村鶴城。ごく普通の燕尾服に身を包んだデュトワとN響楽員の前に和服姿の独奏者2人が現れただけで、何か、特別なセレモニーの幕開けという期待が高まる。ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の音楽監督、指揮者のサイモン・ラトルは生前の武満と親しかったが、「『ノベンバー・ステップス』を実演で聴いたことがない」と言い、コンサートマスターの樫本大進や首席オーボエ奏者のアルブレヒト・マイヤー、ソプラノ歌手のバーバラ・ハンニガンらと連れだって、フェルゼンライトシューレに現れた。

 1980年代末、小澤とサイトウ・キネンが「ノベンバー・ステップス」を携えてヨーロッパを回ったころの客席にはまだ、邦楽器への拒絶反応が強かった。「われわれのオーケストラ文化の前で、日本人は何をするつもりだ」と、露骨に嫌みを言うドイツの聴衆もいた。だが今回、地元の「ザルツブルガー・ナッハリヒテン」紙は2人の邦楽器の「深い内面の静けさが放つ輝き」に魅せられ、作品の「瞑想(めいそう)的オーラ」を肯定した。武満ではしばしばフランス近代音楽、特にドビュッシーの影響が指摘される。デュトワの柔軟な指揮はそうした側面を際立たせ、世界初演者の小澤とはまた別の味わいを引き出す。

アート&レビュー