働き方・学び方

ダイレクトメッセージ

ベテランが楽をしたらおしまい 野球評論家 工藤公康

2013/7/23

 漠然とした不安――。うまく言えないのですが、このままではいけないという心のざわめき、焦燥感といったものを、みなさん、感じることはありませんか? 私の場合、「今までと同じことを続けている」とき、そんな気持ちが頭をよぎります。

同じことを続けていて焦りを覚えないようでは先はない

 人の体は1年たてば、その分、年をとります。1年投げ続ければ疲労もたまり、心身の疲れを取り除かなくては次の年に支障が出ます。なのに、「来年も今年のようにトレーニングをしていれば、また同じように成績を残せますよ」と平然という選手がいる。本当にそうなのか?と疑問がわいてきます。

 スポーツに限らずどの分野でもそうでしょうが、真の“プロ”であるならば、次の年は一段と自分の力をレベルアップさせる必要性を痛感しているものです。仮に今年打ち取ってきた相手だとしても、躍起になってこちらの弱点を探し、攻略法を見つけてきます。いざ翌年のシーズンが始まり、ライバルに打ち込まれ、勝てなくなった段階で悩んでも、もう遅いのです。

 200勝、最優秀防御率、日本シリーズMVP……。振り返れば、こうした成績を残せたからこそ、逆に不安が大きくなっていった気がします。肉体的な消耗、精神的な疲れ、肝臓など内臓にも澱(おり)のようにストレスがたまっていきます。それらをすべて元に戻すことに、一体どれだけの時間がかかることでしょう。「こんなはずじゃなかった」「昨年までできたのになぜだ!」と悩むことになります。30歳、35歳、40歳と年々回復力を失って衰えていく肉体にあって、戦う意欲など心までついていかなくなってしまうのです。不安だからこそ、今の自分の体と対話する。不安だからこそ自分の心と対話する。何が必要かを必死で考える。その積み重ねで29年にわたる現役生活を続けられた気がします。

 最近、30歳を過ぎた選手から「長く野球を続けるには、何をすればいいですか」と聞かれることがあります。そんなときは「若いときの練習量をこなしなさい」と言います。「毎日、腹筋を2000回やってみよう!」と。

 そう話すと、みんな一様にビックリした顔になる。そしてベテランになるほど、同じ言葉がその表情に浮かんでいるのが見て取れます。「そんなことできませんよ」。でも、その言葉、その発想が野球を長く続ける環境をむしばんでいるのです。年をとれば、経験を重ねれば“楽”ができる。それこそが現役を続けられない理由なのです。若いときに3時間でできた練習量がこなせないなら、それを5時間、6時間かけてやり抜いてみる。それで初めて昔と同じ力量を維持できるのです。マウンドに登れば、年齢は関係ないのですから。

働き方・学び方