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父になった是枝裕和監督の真情 熱い拍手鳴りやまず

カンヌ映画祭リポート2013(6)

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NIKKEI STYLE

エンドクレジットが流れ始めるや、リュミエール劇場の観客は総立ちとなり、熱い拍手が10分近くも続いた。18日夜の是枝裕和監督「そして父になる」の公式上映。出演した福山雅治、尾野真千子、真木よう子、リリー・フランキーと共に、是枝は手を振って喝采に応えた。是枝、福山、尾野の目には光るものがあった。

「あ、届いてるなという感じが、見ている間ずっと持続して、エンディングまでたどり着いた」と是枝。「是枝さんよかったですねという思いがこみあげてきて、男泣きした。自分のことでは泣けないんだけど」と福山。

病院での赤ん坊の取り違えが発覚し、すでに6歳になった息子が実の子でないことが判明する。そんな2組の夫婦の物語である。

東京の大手建設会社に勤める野々宮良多(福山)は、挫折を知らないエリートビジネスマン。大きな都市開発プロジェクトを主導し、週末も忙しく働く。妻みどり(尾野)、一人息子の慶多と都心の超高層マンションに住む。高価な知育玩具をそろえ、ピアノを習わせ、名門小学校のお受験にも余念がない。

一方、斎木雄大(フランキー)とゆかり(真木)は北関東の地方都市で小さな電器店を営む夫婦。長男の琉晴ら3人の子持ちで、店舗兼自宅はいつも騒がしい。都会の「勝ち組」の良多の目には、この夫婦は粗野で貧しく厚かましい田舎者に映る。

病院はミスを謝罪し、前例に従い子どもの交換を勧める。両家は病院に慰謝料を求める裁判をしながら、少しずつ互いの息子を預かりあうことにする。良多はいっそ2人とも引き取れないかと考えるが、子どもたちと密接にふれあい彼らの心をつかむのは雄大の方だった……。

「誰も知らない」(2004年)、「歩いても歩いても」(08年)の是枝らしい、人物の自然なたたずまいが魅力だ。あたかもドキュメンタリーのようで、演技しているとは思えないところがある。とりわけ子どもの振る舞いや物言いは驚くほど生々しい。生身の俳優から出てくる身ぶりや言葉を探りながら、現場でセリフを直していく是枝演出の成果だ。

同時に「そして父になる」はこれまでのどの是枝作品よりも、物語としての明確な構造をもっている。

経済的、社会的に好対照の2組の家庭を設定し、そこに生じる様々な葛藤を具体的に描き出す。特にエリートである良多の動揺に焦点をあて、その自信が崩れていくさまを丁寧に追う。思わせぶりなショット、無駄なショットがなく、きびきびと語っていく。

そんなくっきりした物語の輪郭をもったことで、「父になるとはどういうことか」という良多の個人的な問いが、同時に彼らが生きる現代日本社会への問いにもなってくる。

18日の記者会見で海外のジャーナリストが注目したのもその点だった。「なぜ異なった社会的タイプの家族にしたのか」「心理と同時に社会を描いたのはなぜか」という質問が相次いだ。これに対し是枝は「社会的格差の問題が先にあったわけではない」と答えた。

是枝は続けてこう説明した。「プライドが高く、人を見下すような性格の主人公が、自分と血のつながっている子どもをこんな親に育てられたのか、とショックを受ける。主人公に少しずつ時間をかけて負荷をかけていきたかった。相手がどんな男だったら彼はつらいかという意地悪な視点で考えた」

日本社会の構造問題に迫るためではなく、揺れ動く父親の物語の叙述のための設定だというのだ。「結果的に日本社会の一側面になったかもしれないが、最初から意図したわけではない」

むしろ、是枝にとって切実だったのは、5歳の娘の父親としての実体験だという。この日の記者会見でも「父母を亡くし、子どもをもって、家族の中の自分のあり方が向き合うべきテーマになった」と明言した。

「自分が父になって生まれた問題意識と感情を核にしている」と是枝はカンヌへの出発前に東京でも語っていた。「それは地に足がついた問題。子どもを東京で育てるとき、保育園に入れないとか、直面する問題はたくさんあるでしょう」

個人的な体験を出発点にした映画作りを意識したのは、老母を描いた「歩いても歩いても」から。「自分の体験の中に閉じずに、物語が広がっていった。あれはおれの母親だ、という反応が世界中であった」

そんな映画をこれまでは「具体的な誰かに語りかけるように作ってきた」。「歩いても歩いても」は母に向かって作ったし、「奇跡」(11年)は「子供が10歳になった時に見せるもの」として作った。

ところが「そして父になる」は違う。「自問自答。初めて自分の足元に向かって作った。僕自身の悩み、不安を掘り下げてみようと思った」。

その結果、良多には「僕という人間の小さいところ、イヤなところ、屈折しているところがよくでている」という。確かに鼻もちならないイヤな男だ。それだけにこの人物には現実感がある。是枝の人間を辛辣に見る目が光っている。

1962年に東京に生まれた是枝は、87年に早大を卒業。当時、萩元晴彦、村木良彦、今野勉らそうそうたるテレビディレクターが集う梁山泊(りょうざんぱく)だったテレビマンユニオンに入社した。テレビドキュメンタリーで数々の賞を得た後、95年にデビュー作「幻の光」がベネチア映画祭で金のオゼッラ賞を受賞。2001年「ディスタンス」でカンヌのコンペに初登場し、「誰も知らない」で主演の柳楽優弥が男優賞を受けた。

日本の映画監督では最も層の厚い世代に属するが、本人の意識はともかく、この世界では最もエリートコースを歩んできた人と言えよう。そんな是枝がてらいなく自己を吐露したという側面が「そして父になる」には確かにある。それでいて、露悪的でなく、自己憐憫(れんびん)にも陥っていない。

真情を核にして、普遍的な人間ドラマに昇華させる。是枝の映画作家としての成熟を見た。

(カンヌ=編集委員 古賀重樹)

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