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同学年では遅い生まれなのに 「早生まれ」の理由

 

2013/3/26

 まもなく春の入学シーズン。真新しいランドセルを背負った小学1年生のかわいらしい姿を見かけると、大人の心も弾む。ただ、いわゆる「早生まれ」の子どもの親にとっては、小学校入学の喜びと同時に不安が募る時期でもある。同じ学年でも最大で1歳近く幼いため、「授業についていけるか心配」「体も小さいみたい……」など、生まれが遅いゆえの成長差が気になるのだ。ところで、この「早生まれ」という言葉、同じ学年の中では誕

 まもなく春の入学シーズン。真新しいランドセルを背負った小学1年生のかわいらしい姿を見かけると、大人の心も弾む。ただ、いわゆる「早生まれ」の子どもの親にとっては、小学校入学の喜びと同時に不安が募る時期でもある。同じ学年でも最大で1歳近く幼いため、「授業についていけるか心配」「体も小さいみたい……」など、生まれが遅いゆえの成長差が気になるのだ。ところで、この「早生まれ」という言葉、同じ学年の中では誕生月が遅く、年を取るのも遅いはずなのに、なぜ早生まれと呼ぶのだろうか。

■1年のうちで早い生まれが「早生まれ」

早生まれの著名人
湯川秀樹物理学者・ノーベル賞受賞1月23日
江崎玲於奈物理学者・ノーベル賞受賞3月12日
小泉純一郎元首相1月8日
長嶋茂雄元プロ野球選手2月20日
中田英寿元プロサッカー選手1月22日
松任谷由実歌手1月19日
松田聖子歌手3月10日
水木しげる漫画家3月8日
柳井正経営者2月7日
三木谷浩史経営者3月11日

(日付は誕生日、敬称略)

 辞書によると、早生まれの定義は「1月1日から4月1日までの間に生まれたこと。その人」(岩波国語辞典第7版新版)。小学校の学年は「4月1日に始まり翌年の3月31日に終わる」と国は定めており、4月1日に満6歳になっている子どもが入学できる。早生まれという言葉は、特にこの小学校の入学時期で話題になることが多い。

 4月~翌年3月という年度でみれば、早生まれの子どもは、年度初めのころに生まれた子どもに比べ、場合によっては1歳近く幼い。たとえば4月2日生まれなら、入学式の時点ではすでに7歳になっているが、早生まれ、それも3月後半の生まれだと約1年後にやっと7歳になる。入学式から終業式までのほぼ1年間は、6歳児のままで、同学年の中で最も幼い方に属する。

 実はこの早生まれ、4月~翌年3月の「年度」の中で比較しているのではなく、1~12月の「年」の中で見て、早い、遅いと比べているのだ。同じ年の生まれでも、1月1日から4月1日までに生まれた子どもは、4月2日以降に生まれた子よりも1年早く小学校に入学するから「早い」というわけだ。

■由来は数え年

 しかしそれでも、早生まれと呼ぶのは違和感がある。それもそのはず、この言葉は、日本で60年ほど前からあまり使われなくなった「数え年」という年齢の数え方に由来する。

 数え年と言われてもピンとこないかもしれないが、日本は古くから、現在使われている「満年齢」ではなく、「数え年」で年齢を数えてきた。生まれた瞬間(年)を1歳として、その後、正月(新年)を迎えるたびに1歳ずつ加える方式で、同じ年に生まれた人は、誕生日に関係なく、正月が来ればみんな一斉に年を1つ取る。

 日本国語大辞典第2版(小学館)では、早生まれの由来を「4月2日以降に生まれた児童が数え年8歳で小学校に入学するのに対して、それより早く、数え年7歳で入学するところからいう」と解説している。

■「はやあがり」という言葉も

  • 春の入学シーズンも間近に
 小学校の入学時期は年度が新しくなる4月。4月1日までに満6歳になっている子どもが入学できるので、その前年の4月2日から年が変わって4月1日までの生まれが対象となる。そのうち12月31日までに生まれた子どもは数え年で8歳になっているが、1月以降生まれは1歳少ない数え年7歳になる。

 現在はほとんど耳にすることはないが、早生まれの意味に近い言葉が、大辞林第3版(三省堂)で紹介されている。

「はやあがり:数え年7歳で小学校に入学すること。七つ上がり」

「おそあがり:数え年8歳で小学校に入学すること。八つ上がり」

 数え年を使っていた昔の人々は、同年齢の中で早く小学校に上がるグループを「早上がり・七つ上がり(7歳で小学校に上がる)」、遅いグループを「遅上がり・八つ上がり(8歳で小学校に上がる)」と呼んで区別したのだ。これだと時系列的に矛盾がなくわかりやすい。

■国が満年齢を指導、「早生まれ」わかりにくく

 日本が年齢の刻み方を、数え年から現在使っている満年齢に変更したのは明治時代。ただ、なかなか一般の人々にまで浸透しなかったため、国は1950年(昭和25年)に、国民は年齢を満年齢で言い表すよう心がけなければならないと規定。誕生日の前日をもって年齢を重ねる満年齢の考え方を、日本中に徹底させた。

 数え年の習慣がなくなるにつれ、早上がりや七つ上がりという言葉もいつしか消えてしまい、かろうじて辞書の中に存在するだけになってしまった。今も残っていれば、早生まれという言葉がもっとわかりやすかったかもしれない。

 ところで、早生まれの人々は、大人になれば同級生よりちょっと若いなど、メリットを感じることもできる。しかし子どもの間、特に小学校入学の頃は、体格や体力、発達などの面で同学年の子どもと差があるのではないか、と親の心配は尽きない。これは今に始まったことではなく、昔の親も同じように悩んでいたようだ。

 35年(昭和10年)3月16日の読売新聞「婦人」欄では、「今春就学期の私の子供! 入学させようか それとも延ばそうか? 軽率に就学を急いだらそれこそ一生涯浮かばれぬ!」という記事を載せている。早生まれの子どもが他の子どもに比べて物覚えや数を数えることが遅れているようなら、就学を遅らせるような措置が望ましい、とアドバイスしている。

■親の心配は世界共通

 実は、親の判断で入学時期を遅らせることができる国では、この記事で提唱しているようなことも実際に行われている。

 9月入学が一般的な米国では、州や地区によって、入学する年齢の区切りの日(カット・オフ・デート)が異なる。4月1日で一律に区切る日本では考えにくいが、9月のところもあれば、12月が区切りという地区もある。この区切りの日より誕生日が少し早い子どもがいる親は、早生まれの子どもを持つ日本の親と同様にやきもきするようだ。ただ、親の判断で入学時期を遅らせることも可能なため、スポーツや学力の面で不利になっては困るという理由から、1年入学を先延ばしにするケースもあるという。

 英国では、民間の研究機関が2011年、子どもの誕生月と成績の関係を調査。通常、入学時期が9月の同国では、誕生月が8月の「早生まれ」の子どもに不利な点が目立つという結果を発表し、物議をかもした。留年や学年の飛び級などが珍しくなく、日本に比べれば年齢や学年による横並び意識が強くないとされる海外だが、子どもの成長を気にする親心は、どうやら世界共通のようだ。

 プロ野球やJリーグなどスポーツ選手に早生まれが少ないとされる一方、元プロサッカー選手の中田英寿氏(1月22日生まれ)など、世界のトップに立つ選手もいる。生まれ月が子どもの将来に及ぼす影響についての評価は様々だ。生まれが早かろうが遅かろうが、希望を胸に新しい環境に飛び込むピカピカの新1年生に、心からの祝福を贈りたい。

(武類祥子)

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