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舞台・演劇

歴史と向きあう演劇 演劇回顧2012

2012/12/30

 劇によって歴史といかに向き合うか。2012年の演劇界をふりかえって思い起こされるのは、そのことだ。

 ふたりの劇作家をあげよう。

 まず鄭義信。新国立劇場で作・演出した「パーマ屋スミレ」は1960年代の炭鉱事故を描き、在日コリアンの離散の運命に原発事故の悲劇を投影した。植民地時代の韓国を舞台にした日韓合作「ぼくに炎の戦車を」という力作(演出も)も世に出した。ともに「在日作家」にしか書けない演劇的現代史だ。

 もうひとりは野田秀樹。リニューアル・オープンした東京芸術劇場の開幕公演で作・演出したNODA・MAP「エッグ」はスポーツの熱狂が戦争の狂気に反転する、おそろしい劇。奇想は731部隊の人体実験まで一気に遡及(そきゅう)した。

 竹島や尖閣諸島の問題がクローズアップされた年だった。が、鄭義信、野田秀樹とも事件に触発されて書いたわけではない。劇作家は現実の先を歩いていたのだ。野田秀樹が「THE BEE」の英語版、日本語版の再演で研ぎ澄まされた演出をみせ、暴力の連鎖する恐怖をまざまざと印象づけたことも付け加えておこう。

 演出家でやはり名があがるのは蜷川幸雄だ。東京芸術劇場がイスラエルのテルアビブ市立カメリ・シアターと共同製作したギリシャ悲劇「トロイアの女たち」は日本語、ヘブライ語、アラビア語が飛び交った。コロス(合唱隊)のセリフが異言語で繰り返される「反復」に演劇的な意味があった。私たちは性急で勇ましい言葉ではなく、とつとつと悲惨を語る言葉にこそ耳を傾けなければならない。

「トロイアの女たち」の白石加代子(中央)とコロス(写真 宮内 勝)

 創作劇の秀作をもう少し挙げる。永井愛(作・演出)の「こんばんは、父さん」は代表作のひとつ「こんにちは、母さん」の姉妹編で、父性崩壊の苦さを経済至上主義の軌跡に重ねる作劇が巧みだった。東憲司は座付き作家をつとめる桟敷童子で「泳ぐ機関車」を作・演出し、炭鉱三部作を完結、代表作を生みだした。進境著しい前川知大もイキウメ「ミッション」(小川絵梨子演出)で、予期せぬ災害と向き合う虚無的な感覚を鮮やかに切り取った。

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