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ブームの予感(日経MJ)

メタボ対策でトマトブーム、予想外の長期化へ 生鮮やジュース、苗…2ケタ増続く

 

2012/8/12

 今年2月、含有成分がメタボリック症候群対策に期待できるとの研究成果が報道され、にわかにトマトブームが起きた。その勢いはいまだ衰えず、一時店頭で品薄になったジュースは販売好調が続き、生鮮のトマトも売れている。かつてメディア発の口コミで人気を博した食品は数々あるが、たいがいは一過性に終わっている。トマトブーム持続の背景には、家庭でのレシピの工夫や栽培など、ごく身近で応用の利くこの食材ならではの特性が

 今年2月、含有成分がメタボリック症候群対策に期待できるとの研究成果が報道され、にわかにトマトブームが起きた。その勢いはいまだ衰えず、一時店頭で品薄になったジュースは販売好調が続き、生鮮のトマトも売れている。かつてメディア発の口コミで人気を博した食品は数々あるが、たいがいは一過性に終わっている。トマトブーム持続の背景には、家庭でのレシピの工夫や栽培など、ごく身近で応用の利くこの食材ならではの特性があるようだ。

■ジュース出荷額、震災前の2倍

  • 品種改良が進み店頭には様々な種類のトマトが並ぶ(東京都調布市のいなげや調布仙川店)
 「健康にいいと聞いて今年は毎朝、生のまま食べている」。食品スーパーのいなげや調布仙川店(東京都調布市)でトマトを買った70代の主婦はこう話す。同店では甘みの強い「濃縮トマト」(1パック498円)や加熱するとうまみが出る「シシリアンルージュ」(1パック298円)を中心に、20種類そろう生鮮トマトの売れ行きが前年を上回る水準で推移する。

 同業のサミットでも6月は生鮮トマトの売り上げが前年同月を21%上回った。トマトジュースも同23%増。ジュースについては、国内シェアの半分を占めるカゴメの6月の出荷額が、商品供給が滞った東日本大震災時より前の時期に比べても約2倍の水準だ。キッコーマンでもイタリア産トマトを使った紙パック入りの調理用カットトマトの同月出荷額が前年の2倍になっている。

 トマトブームの発端は京都大学などのチームによる研究発表。マウスを使った実験で、トマトの成分に中性脂肪の上昇を抑える効果が認められたと報じられた。メタボリック症候群改善への期待から、直後にトマトが売れ出し、ジュースは一時品薄となった。ただし、メーカーなどは「1~2カ月でブームが終わると思っていた」(キッコーマン)。その予想に反し、ブームが長期化しているのはなぜなのか。

■昔の愛飲者が戻ってきた

  • 長沼さんはレシピ投稿サイト「クックパッド」にトマトを使った料理を投稿した(千葉県松戸市)
 トマトジュースではブームをきっかけとする需要層の拡大がみられる。カゴメによると売り上げのピークは1970年代後半。80年代に入ると飲料の種類が増え、野菜ジュースも続々登場し需要が縮小した。2011年の市場は116億円とピーク時の4割まで落ち込んだ。近年は需要層の多くをヘビーユーザーが占めていた。

 それが今回のブームを契機に、中高年など「昔、飲んだことのある消費者が戻ってきた」(カゴメの小篠亮執行役員)。さらに塩分をかつての5分の1程度に減らしたこともあってか、なじみの薄かった若い世代も手を伸ばし始めているという。

 これまでブームになった食品に比べ、トマト自体がなじみ深く、使い勝手のいい野菜であることも息の長い人気の要因とみられる。

■関連レシピ投稿、月2500件も

 料理レシピの投稿サイト、クックパッドではトマトを使った料理の掲載件数が現在約10万5000件。年初は月1000件程度の投稿だったが、ブームを受けて直近は月2500件の投稿がある。マーケティングライターの牛窪恵氏は「クックパッドは今、家にある食材をどう使おうかと考えて閲覧することが多い。ブームでトマトの購入量も増えており、メニューを探す需要が多いようだ」と話す。

 松戸市の主婦、長沼弘美さん(43)は鶏のトマト煮やトマトとショウガを使ったスープなどを投稿した。鶏のトマト煮は5月末の投稿以来、1カ月間に閲覧者100人がお気に入りに入れた。長沼さんは「今まで投稿したレシピと比べてもかなりのハイペース。今年はトマト料理への関心が高いのでやる気が出る」と話す。今はトマトのグラタンなどを考案中。「煮ても焼いても生でも食べられる」ため、レシピのバリエーションが広い。その利点が今回のブームで再認識され、生鮮のトマトの売れ行きにつながっている可能性が大きい。ここ数年、店頭に並ぶ品種が増えたことも理由とみられる。

■栽培派の増加、ブーム下支え

 もう一点、見逃せないのは園芸ブームとの関連だ。トマトが注目されたのは苗の出回る少し前の時期。「自分でも育ててみようか」という「栽培派」の増加がブーム長期化を下支えしていることも考えられる。

  • トマトの苗が前年比5割増のペースで売れている(東京都練馬区のオザキフラワーパーク)
 ホームセンター大手のカインズでは3月にトマトの種が前年比5割増の売れ行き。4月以降に出始める苗の販売は2割増のペースだ。「昨年は安心・安全意識の高まりで自宅で野菜を作る人が増え、トマトの販売が好調だったが、今年はそれも上回る水準」(同社)という。

 大型種苗店のオザキフラワーパーク(東京・練馬)で、家庭菜園が趣味という30代の男性会社員は「今年は育てやすいミニトマトを買った」。同店では苗が前年比5割増のペースで売れている。尾崎和子マネージャーは「今年は週末に雨が多いにもかかわらず売れ行きがいい」と驚く。ブームの影響で、今年栽培を始めた初心者の問い合わせが目立つ。

■居酒屋では集客の目玉に

 今年はトマトの苗を約30種類そろえた。初心者に人気のミニトマトでは、病気に強く実がたくさんとれるサカタのタネ「アイコ」(150円)や、デザートのような甘さのサントリーフラワーズ(東京・港)「ピュアスイートミニ」(380円)が売れ筋。大玉ではタキイ種苗の「桃太郎」(398円)が売れている。熟練度に応じて種類を選べるのも魅力だ。

 外食ではコロワイドが居酒屋でトマトを使った釜飯や酢豚のフェアを実施するなど、今は集客の目玉としても使われている。「世界で最も多く作られている野菜」(カゴメの西秀訓社長)であるトマトが日本の食のシーンで活躍する余地はまだ大きいのかもしれない。食卓を華やかにするその色彩も魅力の一つだ。味わって、料理して、または自ら栽培して、トマトの楽しみ方を自分なりに広げる消費者が増えれば、その「熟れ時」はさらに長びく可能性もある。

(安西明秀)

[日経MJ2012年7月13日付]

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