リスク潜むSNS うっかり書き込みでトラブル多発
ツイッター、フェイスブック…
急速な普及によって、ツイッターやフェイスブックなどのソーシャルメディアは市民権を得つつある。しかし、その便利さの裏側で、不適切な書き込みや個人情報の意図しない流布などがトラブルを引き起こしている。「落書き」感覚で誰にも知られずに書き込めた匿名主体のネット掲示板とは異なり、ソーシャルメディアは実名登録が前提のサービスが多く、個人情報が特定されやすい側面がある。「現実の社会でしてはならないことは、ソーシャルメディアでもしてはならない」――。利用者の"ソーシャルリテラシー"が問われている。
相次ぐ不祥事
<ケース1>
2011年8月。京都に本社を置く製薬会社の女性社員が、同僚が睡眠薬を飲み会で他人の酒に混入しているという趣旨のつぶやきをツイッターに投稿。それを見たネットユーザーが批判し、「炎上」となる。投稿した社員が特定され、個人情報や写真がネットに流出。9月5日には、会社が自社サイトで謝罪文を掲載した。
<ケース2>
同年1月、東京都目黒区の高級ホテルのアルバイト従業員が勤務中に、利用客だった有名人カップルに関する情報をツイッターで発信。ホテルが謝罪した。このアルバイト従業員は、匿名でツイッターに登録していたが、他のネットユーザーによって特定され、同従業員の個人情報や写真がすぐにネットに流出した。
消えない書き込み
製薬会社の広報担当者は「社員の行動について、おわび申し上げる」と話した上で、「ネットの情報拡散のスピードが速いことに改めて気がついた。一社員のモラルの低い書き込みが、会社全体を傷つけてしまう」と話す。ホテルについては、記者の問い合わせに対し、「この件に関して取材は受けない」(広報担当者)との姿勢。
2つのケースとも、社名やホテル名をグーグルなどで検索すると、現在でも、この不祥事についての関連サイトが上位に現れる。
「ネットへの書き込みは、すぐに削除できると考えている人がいる。しかし、一度書いてしまったものは消えないと思った方がいい」と話すのは、ネット社会の危機管理などを得意とする危機管理・広報コンサルタントの平能哲也氏。同氏によると、匿名アカウントであっても、炎上すると必ずと言っていいほど、個人が特定されるという。「匿名だからと軽い気持ちで書き込むのではなく、書き込む内容が全世界の人に見られていいものかどうかを考えてから、書き込むべきだ」と強調する。
IBMはガイドライン策定
こうした不祥事が相次ぐ中、ソーシャルメディアを利用する際のルールを設ける企業も増えている。
例えばIBMは05年という比較的早い段階から「ソーシャル・コンピューティングのガイドライン」を策定。同社は「パソコン事業売却後も一般消費者との接点を保つため、従業員に積極的な情報発信を促す一方、業務関係の書き込みにはルールを設けた」(マーケティング&コミュニケーションズ主任広報担当部員の栗原進氏)と説明。
IBMのガイドラインでは、「けんかをしかけてはならない」「IBMに関連したことを書く際には、氏名や職務などを明らかにすること」など、ブログをはじめとするソーシャルメディアに書き込んでいいこと、悪いことなどを具体例とともに規定している。
IBMではガイドラインの効果もあって、社員の書き込みが問題となったケースは今まで一度もないという。栗原主任は「ガイドラインは常識的なことばかりだが、明記することによって、結果的に会社と従業員を守ってくれる」と指摘する。
ケース1で紹介した製薬会社も、事件発生を受けてソーシャルメディアに関する内規を策定したほか、「このようなことが二度と起こらないよう、倫理面での社員教育を徹底している」(広報担当者)。
このほか、ソニーが現在、世界共通の従業員向けガイドラインの策定を進めている。「ばらついている解釈を共通化する」のが目的だ。
フェイスブックでのトラブル
日本国内での登録者数が500万人を超えたフェイスブックでも、トラブルに発展するケースが増えている。発祥の地、米国での事例を見てみよう。
「この写真はなに!? 彼は私の彼氏よ!」「あなたではなく、彼が好きなのは私よ!」――。多くの米国の大学生が楽しみにする、週末のホームパーティー。そこで撮った、泥酔時の異性との写真をフェイスブックに掲載したことで、隠れた人間関係や秘密が発覚し、交際関係の破局や、離婚にまで至ってしまうケースが増えているというのだ。
実名登録が原則のフェイスブックでは、書き込みに自己抑制が働く傾向にある。しかし、それでも友達同士でつい盛り上がって撮ってしまった写真が掲載され、問題を引き起こしているケースが散見される。
ソーシャルメディアリスク研究所(東京都多摩市)の田淵義朗代表は「フェイスブックは現実世界つまり"リアル"の延長。書き込んだ内容や掲載する写真などは、そのままその個人の印象に直接つながる」と指摘する。
便利な「タグ」だが……
フェイスブックでは、個人ページに写真を掲載する際、「タグ(札)」という便利な機能がある。しかし、この便利な機能がトラブルを生む原因となっているともいう。
タグの機能を説明しよう。例えば、友達が集合写真を掲載する時、写っている全員の名前を入力して判別できるようにしタグすると、タグされた人のページに、その写真が自動的に掲載される仕組みだ。グループで撮った写真などを共有する際に、いちいちメールに添付して送るような手間を省くことができる。
だが、他人に見せたくない写真をタグされてしまった時は厄介だ。
トラブルを受けて、フェイスブックにはタグ付けを承認しない設定もできる仕組みも追加された。しかし、自分のページには載らなくても、他ユーザーのページには写真が残ってしまう。例えば、泥酔した写真など人に見られたくない写真が、いつまでも残る可能性もあるということだ。
フェイスブックが大学の同窓生の間で広がった米国などとは異なり、日本では、会社の上司や取引先など、それほど親しくなくても、投稿内容や写真に加え個人情報などが見られる「友達」としている場合が多い。最近では「友達」であっても、セキュリティー設定などの細かい管理で、写真や投稿を公開する範囲を決めることもできるようになったが、その設定をきちんとしなければ、見られたくない人に見られたくない写真や書き込みがさらされるリスクがある。
位置情報が生むリスク
また、フェイスブックに限らず、ソーシャルメディアに掲載した写真から、その写真を撮った位置情報などが取得できるため、新たなトラブルも生まれている。
スマートフォン(高機能携帯電話)には写真に撮影した場所の位置データを付随情報として加える機能がある。その付随情報機能を付けたまま、自宅の部屋で撮った写真などを掲載すると、その場所が他のユーザーに分かってしまう場合がある。
例えば、知らないうちに不特定多数に自宅を特定されてしまった後に、不用意に「今日から旅行」などと書き込んだ場合、自宅に人がいなくなるのは明確で、その期間を狙った空き巣にあうような可能性も考えられる。
ソーシャルメディアは、一方通行の情報伝達ではなく、相手の反応が即座に返ってくる双方向のメディア。オバマ米大統領当選の陰の主役となり、チュニジアやエジプトなどでの「中東の春」を支えた。企業も製品やサービスを紹介する口コミツールとして注目し、対話型の販促ツールとして存在感を増している。
危機管理・広報コンサルタントの平能氏は警告する。「ソーシャルメディアは、単なるつぶやきツールではなく、『メディア』だということを忘れてはならない。不適切な書き込みをすると、自分の個人情報や写真がネットにさらされる可能性があることを常に考え、書き込みの送信ボタンを押す前に、その書き込みが半永久的にネットに出ても大丈夫かどうか自分に問いかけるなどして自己防衛すべきだ」。利便性と怖さが共存するソーシャルメディア。一人ひとりがソーシャルリテラシーを高め、賢く使いこなす必要がありそうだ。
(電子報道部 岸田幸子)
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