健康・医療

患者は働く

「病のこと言うな」勤務先の病院長の忠告 関節リウマチ(4) 斎藤昌子さん(47)

2011/2/20

 病院に入職当時「リウマチ(のこと)を病院で言うな」と院長に諭されました。真意がよくわからなかったのですが、月日を経て、病院には深刻な状況で働く医療従事者が少なくないと知りました。

非常勤講師を務める専門学校の出勤前の発声練習(茨城県土浦市)

 病院では常時、人命の危機と対峙します。報われてもそうでなくても感情に左右されず、自分の体調や都合を言い訳にせず、待ったなしの現場で粛々と診療に打ち込む医療者の姿に、患者として医療の恩恵に浴するばかりだった自分を恥ずかしく思いました。

 すがるようだった患者や家族が、処置や手術の思わぬ結果や不測の事態に暴言を吐くなどひょう変するのも目にしました。担当医の対応がゆるぎないものだと確信したうえで弁明や謝罪は一切せず、傾聴に徹する院長の様子は、普段の気性の激しさからは想像できないものでした。見ているしかない私はつくづく「よそ者」でした。

 半面、病気であることが日常の世界は、居心地が良かったことも確かです。治験は大学病院でしたが、大学病院の主治医は週に半日勤務先病院のリウマチ外来を担当していて、大変心強かったです。もちろん良いことばかりではありません。倫理委員会で記録を取っていた時、偶然私が使用中の治験薬名が出ました。リウマチに効くと信じていた薬の副作用を知り、パソコンを打つ手が震えました。

 大型机を並べる際、整形外科医に「リウマチが悪くなるよ」と言われて驚きました。「義母がリウマチだけど、新しい薬ってどう?」と話しかけた医師もいます。手を見れば一目瞭然だったのです。他方、黙っていてもわかってもらえるのかと思えば、熱湯を大きなポットに注ぐ作業ができず、隣の看護師長にこっそり謝ると、「そういうことは先に言って」と言われたことも。お仕着せがましくなく、迷惑をかける前に伝えるタイミングが大事だと学びました。

専門学校の教え子から贈られた色紙

 共に働き信頼関係が築かれる中で、互いを思いやれることが一番なのでしょう。冒頭の院長の言葉は、新参者が自分の体調などを前面に出して浮いてしまうマイナス面と、リウマチゆえの仕事上の支障というデメリットを比べれば、前者が大きいのでは、という院長なりの直感だったかもしれません。人間関係を知り尽くし、新参者の立場が悪くならないようにとの配慮だったか、と今は思います。

 私は秘書業務に加え職員採用や実習受け入れ実務、各種委員会の調整、院内広報誌発行、そして2年目の2003年6月からは地域医療連携室立ち上げに携わりました。病院の役割分担を明確にしつつ診療所と連携が円滑に進めば、チーム医療充実や患者の安心につながります。医事課で初診患者のカルテ作成方法から基本を学び、紹介を円滑に受け入れられるよう診療所を訪ねて回りました。

 そんな04年の初め、人間ドックの腫瘍マーカー血液検査で桁違いの異常値が出ます。コンピューター断層撮影装置(CT)やPET検査で子宮の悪性腫瘍が疑われ、心身ともに追い詰められました。治験引受会社が治験中止を強く促すなか、主治医は「大事なのは斎藤さんの身体が痛くないこと」と、毅然として治験続行を要請。数値の異常原因が悪性腫瘍以外にないか徹底的に探ってくれました。

 がんかもしれない恐怖。でもそれ以上に、仕事を考慮して時間的制約の少ない経口薬を選んだ結果、仮に治験を中断しても他に有効な薬は極めて少ないという状況は切羽詰まったものでした。

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斎藤昌子(さいとう・まさこ) 1963年京都生まれ。85年国際科学技術博覧会を機につくばへ。自動車研究所勤務を経て、91年テキサス・インスツルメンツ筑波研究開発センター入社。95年関節リウマチ発症。2002年から地域の中核病院の院長室勤務。地域医療連携室等を経て、現在は専門学校の診療情報分野で非常勤講師

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 「患者は働く」は、病気やその後遺症と折り合いをつけながら働き続ける姿を紹介するコラムです。本人にとっての働く意味やその上での工夫、周囲の配慮などについて、直腸がん、糖尿病、子宮頸(けい)がん、悪性リンパ腫、リウマチの5人の筆者が毎週リレー形式でつづります。

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